父へのレクイエム

今年途中から練習に参加された、テノールのTさんは、12月10日(日)にパルテノン多摩で第九を歌った後、12月16日(土)に福岡県飯塚市の「嘉穂劇場第九 其の参」でも歌う。
12月15日(金)羽田から福岡に飛び、当日ゲネプロ、翌15日が本番だ。
嘉穂劇場は、江戸時代の歌舞伎様式を伝える芝居小屋である。
大正10年に設立された「中座」がその前身で、中座は昭和5年の台風により倒壊している。嘉穂劇場として、昭和6年に再建され、平成16年には、NPO法人として設立されている。今年9月、国の文化審議会より、登録有形文化財に指定された。
嘉穂劇場の第九は、平成16年12月が最初で、昨年は、12月24日のクリスマスイブに行われた。「其の参」とは、この劇場における第九演奏会が、3回目であることを指す。
ホームページを見ると、舞台にオーケストラ、ソリスト、合唱団が乗り、乗り切れないコーラスは、2階の客席3方に一列で舞台を囲んでいる写真がある。
今年の嘉穂劇場の第九は、ドイツ人フォルカー・レニッケ指揮九州交響楽団、ソリストには、多摩第九でも歌ったことがあるテノールの佐野正一さんを起用している。
Tさんのお母さんは、70歳代で、20回も第九を歌っている。パートは、ソプラノである。お父さんもお母さんと同じ年代で、お母さんの勧めで5回歌っている。パートは、テノールである。ご両親は、息子と共に第九を歌うのが日頃からの夢であった。
仕事が忙しいことと正直あまり関心がなかったため、ご両親の誘いに「そのうちにね。」と答えてきた。
昨年12月の第九終了後、腰に痛みがあった父上は、年が明けてから肺がんが発見され、5月に薬石効なくお亡くなりになる。
Tさんは、父上が亡くなる前、12月24日に歌った嘉穂劇場で、今年、母上と一緒に第九を歌う。両親の夢を果たし、亡き父へのレクイエムのために歌うのである。
しかし、福岡県での練習に毎回参加する訳にはいかない。そこで、東京の第九合唱団で練習をすることとし、インターネットで検索したところ、「多摩市民『第九』をうたう会」があることを知ったのである。
初めはパルテノン多摩での本番は、欠席するつもりだった。あくまで嘉穂劇場の第九でお母さんと共に亡き父へのレクイエムとして歌う第九が目的だった。
しかし、熱心な先生方の指導等に翻意し、パルテノン多摩にも参加することになった。また、箱根での合宿にも参加し、自己紹介の時間に、さまざまな第九への思い入れがあることを知ったそうである。
亡くなったお父さんのご冥福とTさんの嘉穂劇場での第九の成功をこころからお祈り申し上げます。



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