バス 坪倉 貴之
私が「第九」を最初に歌ったのは20年以上前のことです。当時は、世の中とても景気がよくて、地域の文化振興という名目での、行政主導の演奏会でした。
オケはプロの神奈川フィル、指揮者は佐藤功太郎(故人)、ソリストは塩田美奈子ほかの一流どころです。しかも合唱団員の参加費は無料、楽譜も無料配布で、当日の入場券は、わずか500円でした。正に「よき時代」でしたね。
初めて夢中で歌った第4楽章でした…終わって形容しがたい感動を味わいました。
以来、第九の魅力にとりつかれ、ステージに立ったのは、十回を超えているでしょうね。でも演奏会後、一度として、「完璧に歌えた」と思えたことがありません。
もちろん、楽譜にかじりついて歌った頃に比べたら、最近はステージでも余裕があります。「多摩の第九」に参加させていただいてから、ドイツ語の発音や細かいニュアンスも考えながら歌えるようになってきてもいます。
でも、何回歌っても…やはり「第九」は難しいですね。それぞれの練習には、割合とマジメに参加しています。そんなにも膨大な時間をかけているのに、未だに完璧に歌えないのは、本当に「ため息」が出る思いです。
「逃げ水」のように、近づいたと思うと、更に遠のくといった感じがします。何とも「ニクイ」曲です。でも、それだけチャレンジのし甲斐がある曲ともいえますけど…。
俵万智が作ったサラダに対して、彼氏は「この味がいいね」と言います。なので、その日を「サラダ記念日」としたそうです。わかりますね、その気持ち…。
聴いてくださる方が満足され、歌った自分も同様な思いに浸れるような「第九」を歌いきってみたいです。
「完璧に歌えたから 今日が私の『第九記念日』」
いつか、演奏会が終わった時に、絶対に、そんな気持ちになりたい…と思っている昨今です。
(2011.7 修正加筆)